文芸編集者の柴桜丞には、どうしても原稿を書いてほしい作家がいる。
その名は鈴代凪。彼は、幼い頃の柴に「物語の愉しさ」を教えてくれた恩人だ。
幼い柴に凪が語ったのは、昔話の「ハッピーエンドアレンジ」。
たとえば『マッチ売りの少女』。最後のシーンがつらくて読み進められない柴に、
凪はふんわりと幸せな要素をちりばめた、でたらめなラストを語って聞かせ――。
……そして大人になった柴は、マイペースな執筆活動(ほぼ消息不明扱い)を貫く凪に、彼の作風とは違うが売れ筋の「泣ける小説」を書いてもらうため、彼の開く「古書店兼小料理屋」へ今日も通い詰める。
しかし、柴が凪にそれを書いてもらいたい理由は、本当は別にあって――。
料理スキルが皆無の独り暮らし男子に、
小料理屋店主が
「文学的に」カンタンレシピを
伝授すると
いったいどうなるのか……!?
『「泣ける話」をひとつください。』
特別編
スタートです!
書き下ろしSS内で登場した
「茶粥」の作り方を、
なんと著者のいのうえ先生が、
みずから解説してくださいました!
題して、
「柴でも作れる超カンタン奈良風茶粥」の
作り方!
小学生だった自分に「誰も泣かない話」を語り聞かせてくれた鈴代凪に今度は「泣ける話」を書いてほしいと望む柴桜丞。
編集者と作家という立場で再会を果たした二人の駆け引きめいたやり取りが面白く、柴が凪に「泣ける話」を書かせたい理由や凪が抱える事情を知ったときに思わず涙がポロリ。
柴と同僚の蒼井の掛け合いも愉快。
今よりもっと本を好きになれる、温かくて心優しい物語。
レビュアー
どうか柴と凪のこの温かで幸せな時間が永遠に続きますように!と願いつつ読み進め、読み終わった後はより一層強く願ってやまず。
随所随所に懐かしい絵本や物語のお話が出てくるので、いろんな記憶も織り交ぜながら楽しめます。
最終章の旅は柴だけでなく読者のこちらまで旅している光景が目に浮かぶくらいワクワクして、これで終わりではなく、この先もふたりの時間は続いていくような余韻を残していて安心。
柴の同僚の蒼井もふたりに負けじとなかなかな存在感。こんな同期がいたら柴も心強いに決まってます。
良い意味で書名の印象から裏切られました。
図書館関係者
ページをめくるごとに相手を優しく包み合う、編集者と作家の思いやりの逆マトリョーシカのようなお話でした。
この2人の物語に終わりがきませんようにと、祈るような思いで読み、まだまだ先のお話を読み続けたい気持ちでいっぱいです。
凪のレシピも本当に美味しそう!
こんなふうに人が人を思いあえれば、もう少し優しい世の中になっていけるのにと思いました。
書店関係者
賞まで獲ったのに書籍が出版されず行方知れずになってしまった凪さん。
もう一度凪さんのお話を望む編集者の柴くんはついに凪さんと会うことが叶います。
柴くんの凪さんへの熱い想いがひしひしと伝わってきます。
少年時代の図書館で柴くんが惹かれた美しい人、その人の語るお話は悲しい結末をアレンジされていて涙を流さなくてもいいように、優しく終わりを迎えます。
喧嘩ばっかりしてる同僚編集者の蒼井さんが思いの外、柴くんを理解していて微笑ましかったです。
めでたしめでたし、じゃなくても人生は続いていくから………。
本と優しい想いが繋ぐ凪さんと柴くんのお話に温かい気持ちになりました。
想い続けるって素敵なことですね。
書店関係者