口から漏れたのは、自分のものではないような掠れ声。体全身が熱っぽく、体を起こすだけで節々がずん、と痛む。
燕が風邪を引き込んでしまったのは、夏の終わり秋の始まり。ほんの少しの油断が風邪を招いた。
「すみません律子さん。ちょっと……風邪をひいてしまって……あ。それ以上、近づかないで下さい」
部屋に入ろうとする律子を外に押し戻し、燕は腕で口元を押さえて咳をする。コロコロと喉が鳴った。
嫌な音だ。目が覚めるとこの状態で、体を動かすだけで関節が悲鳴を上げる。
今日は一段と冷える朝だった。冷え込んだ気温のせいか、風邪のせいか起き抜けから寒気が止まらない。
「まあ、大変。私が看病してあげる。お水がいい? お白湯? タオルを冷たくして持ってくるわ」
「何もしないで」
ぐったりとベッドに寄りかかる燕を見て、律子が落ち着かない様子で扉の前を行ったり来たり。
「だって。前、私が風邪を引いたとき、燕くんが看病してくれたじゃない」
……律子は心配するふりをして、少し楽しんでいる雰囲気がある。
咳をこらえながら、燕は首を振る。今は少し動くだけでも億劫だ。
あとがき
前回に引き続き、今回も山本ゆり先生のレシピで小説を書かせていただきました。
山本先生、許可いただきありがとうございます!
そしてふたたび機会を設けていただいた編集部の方にも感謝です。
今回はまっさらな気持ちで「白」のお料理。
せっかくのコラボだから律子さんにお料理をしてもらおう!……でも律子さんがコンロや包丁を使うと大変なことになってしまう!
ということで、山本先生の「レンジで作る簡単リゾット」に挑戦してもらいました。
材料を入れるだけ。それをさらにレンジをかけるだけ。
そんな簡単な工程でびっくりするくらい本格的な味になりました。
最初私が作ったときはうっかり時間を間違えて、柔らかめに仕上がってしまったのですが(味は最高においしかったです)レシピ通り作れば、芯が残りつつほろっとして、ミルキーな本格イタリアンレストランの食感&味わいでした。
律子さんじゃなくても、火を使うのが嫌になる季節にもぴったりなので皆様もぜひ!
山本ゆり先生コメント
レンジで一発で作る簡単リゾットも、誰かのためを思って作るとこんなに優しく、みおさんの手にかかればこんなに綺麗なキャンバスになるんだなあと。
お米の白、黄色とオレンジのチーズが混ざったアイボリーに、緑がかったオリーブオイル。
チーズやバターの香りがここまで漂ってくるようで、こんなに美味しそうなレシピを作ったんか自分!と嬉しくなりました(笑)。
普段の明るい世界なら埋もれてしまいそうな優しい色のリゾットも、風邪をひいてしまった燕くんの白、黒、グレーの重たい世界との対比ですごくパッと鮮やかな一皿になるところがまた良くて。
素敵な世界に入れて頂いてありがとうございました。