ことのは文庫

story

三百年に一度、秋の満月の夜。湖に住む神に「一番美しい娘」を花嫁として捧げなければならない。

そんな伝承がある湖のほとりの村で生まれた、双子の姉妹・よいたまき

姉の宵には、生まれつき顔に青い痣があったため、妹の環が「神の花嫁候補」に選ばれた。

誰からも愛される娘に育ち、その運命を哀れまれる環。逆に虐げられて育つ宵。

だが、彼女たちが16歳になったとき、環に恋をした男の策略で、
実際に神に「花嫁」として捧げられたのは、宵だった。

湖に沈められ、死を覚悟した宵。
しかし彼女が水底で見たものは、美しい水色の瞳を持つ神様と赤子、愛猫がいる、
閉じられた静かな優しい世界だった。

そこで穏やかに暮らし始めた宵は、ある日水面の向こうに、助けを求めて自分を呼ぶ環の顔を見る。

そして「村が水没する」ことを、それを仕向けたのが目の前の優しい神様であることを知り――。

story

  • よい

    十六歳。双子の姉。
    顔の右側に生まれつき青黒い痣(あざ)がある。
    村の仕事はだいたいなんでもこなし、
    文字の読み書きもできる。
    子供が好きだが表だって遊べない事情が。

  • たまき

    十六歳。双子の妹。
    宵と同じ顔立ちだが痣はない。
    村の中では垢ぬけた美人として扱われている。
    育ちのせいか浮世離れした不思議な魅力がある。
    明るく無邪気。

  • 水鏡みかがみ

    水の神様。白く長い髪に水色の瞳を持つ。
    穏やかな性格で、かつては人間と親しんでいた。
    棲家である「みなそこ」に迷い込んできた子猫を
    溺愛している。

  • すず

    三百年前に、水鏡の住む湖に落ちた子猫。
    とにかく可愛く、にに、と鳴く。尻尾は短くて丸い。
    水鏡、宵に懐くが、赫天に対しては若干距離がある。

  • 赫天かくてん

    水の国の隣にある火の国の神。
    とある事情から力を失い、母神から子供の姿にされ、
    水鏡のもとに預けられている。性格は闊達。

  • ひとし

    十六歳。村長の息子。
    幼少期からずっと想い続けている相手がいる。
    根本的には善良な人柄で責任感は強いのだが、
    それが裏目に出ることも……。

story

みなそこにやってきた妻・宵が可愛くて仕方ない水鏡は、
今日もどうやって大切な妻を喜ばせるか思案する。

そんなとき、宵が口にした「ほしいもの」の名は、
水鏡を困惑させるのに十分なものだった――!?

ココでしか読めない、オリジナルショートストーリー

『宵のほしいもの』

story

  • 双子に産まれながら蔑まれてひっそりと生きてきた宵。その境遇には心が痛くなります。
    痣がなく美しい環の方は生贄にならないといけないから、という理由で大切にされているのも
    何だか村の人間の後ろめたさの裏返しみたいでモヤモヤしました。
    そして生贄になる16歳になってしまって……。
    無理やり生贄の身代わりにされた宵は悲しかっただろうな。
    でも、水鏡さまは優しいし、赫天は楽しく明るくて、鈴は可愛いく癒される。
    宵にとってはここが居場所でここから幸せになって欲しいと思いました。
    あんなに辛かった村のことを気にかける宵の慈悲深さに感動しました。
    根っからの悪人がいないことが宵の心を動かしたんだろうな。
    水鏡さまと恋をしてみたりお琴を弾いてみたりこれからの宵の温かい暮らしに笑顔が溢れるといいな。

    書店関係者

  • ある湖のほとりで生まれた双子の姉妹 宵と環。
    そっくりな双子なのに姉の宵には顔に痣があることで虐げられ、環は美しい娘として誰からも愛される。
    環が神への花嫁として捧げられるはずだった。だが捧げられたのは姉の宵であった。
    宵は湖に沈められ、水底で美しい神と可愛い猫と出会う。
    そこから始まる穏やかな日々はまさに和風シンデレラストーリーだ。
    だが地上にいる環はとんでもない状況に追い込まれる。
    宵は痛みを知っているからこそ、環を放っておくことは出来なかった。
    同じ顔をしているのに、ただ痣があるだけで地上では全く扱いが違った。
    だが双子だからこそ通じるものがあった。

    宵が見た水底の世界はとても美しい。
    水底の優しい神の水鏡は最初は気まぐれのように宵に手を差し伸べたが、宵の心の美しさに触れ心が変化していく。
    もうじれったいほどの宵と水鏡の恋模様も可愛い。
    火の国の赫天の成長していく姿ももっと追っていきたい。
    この物語がさらに続いていくことを願っている。

    レビュアー

  • 宵と環、ふたりの双子の姉妹は残酷な運命を背負い生まれてきた。
    神から守られ、豊かに暮らしていた村人たちは、生け贄になる娘を愛で、選ばれず生き残る娘を何年も虐げた。
    そして彼らも、娘の家族と同様に心に余裕を持てず苦しんでいた。

    人は何故、失ってからでないとその存在の大切さに気付けないのだろうか。
    いや、例え失ったとしても、それから目を背けてしまうのだろうか。

    本作では、人の弱さや醜さとともに、あたたかさや美しさも描かれている。
    生け贄になった娘を取り合うような神達の姿が微笑ましくて、ふふっと笑いながらあっという間に読み終えてしまった。

    もし、疲れて何もしたくない気持ちになっていたら、この物語を読んでみてほしい。
    嘘笑いをしながら過ごし乾いてしまった心を、やさしく潤してくれるはずだから。

    教育関係者

身代わりの贄はみなそこで愛される

表紙
  • 著:古池ねじ
  • 装画:篁ふみ
  • 発売日:2025年1月20日
  • 価格:781円(本体710円+税10%)

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