ことのは文庫

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ことのは文庫×エブリスタ
「ライト文芸賞」大賞受賞作!

「ここは入りたくない人以外、誰でも入っていいところ。入ったら皆様、大切なお客さんさ」

常世と現世のあわいにある、日本橋の紙問屋《雪魚堂(せつなどう)》。
そこを訪れる客は、白銀の紙雪が舞う不思議な百鬼夜行に誘われるという。

転職活動中の猪瀬成海(いのせなるみ)は、ある日雪魚堂に迷い込み、
黒ずくめの少年・カナと、胡散臭さ満点の店主名代・魚ノ丞(なのすけ)に出会う。

次の勤め先が見つかるまで、その店の手伝いをすることになった成海は、
様々な心の痛みを背負った客人たちとの交流の中で
彼女自身も忘れていた、ある「真実」へと辿り着くのだが――。

訪れるお客さんたちの心の傷を癒すために、毎夜行われる百鬼夜行。
そこで「癒された心模様」は、世界でたったひとつの、美しい色柄の和紙となる――。
そんな、日本橋にある素敵で不思議な紙問屋さんで起こる、奇跡と救いの物語。

◆編集部による受賞総評◆

「『夢かうつつの雪魚堂~日本橋、みこころうつしの紙雪舞う~※』は
会話の独特のリズム感やテンポ、
そして掛け合いの内容自体の面白さに噴き出してしまうこともしばしばでした。
どれだけ辛い光景を描いていても、
そこに必ず救いとなる一条の明るさを読む側に見出させることのできる描写力は、
本作の非常に強力な武器だと感じます。」

※書籍化にあたり、サブタイトルを変更しました。

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  • 猪瀬いのせ成海なるみ

    カッチリまじめ、ときどき猪突猛進がたまにキズな25歳。
    正義感が強く、曲がったことが許せないが、
    本来は人の痛みを自分のもののように
    共感できる優しさを持つ。
    オーバーワークで体を壊して勤め先を退職。
    現在転職活動まっただ中だが、
    なかなか結果が出ずに少し落ち込み気味。
    ひょんなことから手伝いをすることになった
    紙問屋《雪魚堂》に関わるうち、
    少しずつ彼女の中に変化が起こっていく。

  • 魚ノ丞なのすけ

    着古された縦縞の着流しに黒い丸眼鏡、
    ぼさぼさの白髪に素足に下駄姿の《雪魚堂》店主名代。
    いつでも口数が多く、いつでも飄々とし、
    いつでものんべんだらりとしていて、つかみどころがない。
    その正体は、本人曰く『紙魚の妖怪』……!?
    百鬼夜行では祭山車の上から紙吹雪を散らし、
    琵琶を鳴らして歌い踊る。
    そんなちょっと不思議な彼が、
    成海に《雪魚堂》で働くことを勧めたのには、
    なにやら理由があって……。

  • カナ

    《雪魚堂》に住み着く、黒ずくめの姿をした少年。
    店を訪ねる客を、誰よりも早く出迎える。
    成海も彼によって店内に迎えられた。
    いつも物静かだが、基本的に何も見えず、
    何も聞こえず、何も喋れず、何も感じない。
    百鬼夜行では、魚ノ丞とともに祭山車に乗って、
    紙吹雪に美しい火を灯す。
    そんな彼の心身は、
    実は常にあるものによって苛まれ続けていて……。

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さる晩秋の日の、雪魚堂にて――

晴海屋の絶品和風スイートポテトを味わった後、
カナと二人でつい、座敷で眠ってしまった成海。

肩にあたたかいものを感じて
ふと目覚めた彼女の前にいたのは、
店で渡す「栞」を作っているらしき店主名代・魚ノ丞の姿。

しかし、その姿は
いつもの彼のものとは少し違っているように見えて……

『夢かうつつの雪魚堂』
発売記念・書き下ろしショートストーリー


ぜひお楽しみください。

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  • とても面白くて読むのを止められなかった。
    遠くから聞こえる鈴の音。百鬼夜行の様々な灯り、和紙が持つ色彩の温かみが
    不思議な世界を優しく彩ってくれた。
    成海が背負ってきたものが明かされ、辛い気持ちを抱え込み誰かに助けを求められなかった思いに共感し、
    最後は私の気持ちまで浄化されたように感じた。

    (レビュアー)

  • 一番に感じたのは日本語の美しさでした。
    「みこころうつし」も、どこの誰ともつかない「誰か」が知らない「誰か」を救う、
    まさに「ご縁」で返し返されるところが素敵でした。
    現実は勧善懲悪などなく、どこまでも現実で。
    そんな中、一時の安らぎの後、そっと背中を押してくれる、
    癒しと再出発の物語でした。

    (レビュアー)

  • 読み手を魅了する語り口調の華やかさと親しみやすさの影に隠れた、不穏でドキリとするような作風は、
    現代を生きるひとびとの苦しみや悩みを色濃く写しているようです。
    百鬼夜行で描写される幻想の美しさと不思議さ、ハラハラドキドキさせる臨場感あふれる描写が、
    一層物語の世界に没頭させてくれます。
    就活生から働き盛りの社会人に、店を華やかにもり立てようと必死な経営者……。
    大人として生きる上で、どうしても迷い込み悩んでしまう苦しみを描くのが本当にお見事で、
    だからこそ「みこころうつし」で彼等がどうなるのか、読者は目が離せなくなるのでしょう。

    社会に、家庭に、人生に疲れたひとにこそ薦めたい、大人のための救いと許しの物語でした。

    (レビュアー)

表紙

夢かうつつの雪魚堂
紙雪の舞う百鬼夜行

  • 著:世津路章
  • イラスト:Tamaki
  • 発売日:2022年5月20日
  • 価格:814円(本体740円+税10%)

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