地方を舞台にもののけトラブル案件を「お役所仕事で」解決していくシリーズの第4弾。
今回は神楽と鬼女面、そして人間の怨念や情念が絡む事件。しかもシリーズ初の、警察まで巻き込んでしまう大事件になっていきます。
ままならぬ人生を歩んでいるといううっすらとした自覚があると、鬼女面に取りつかれていく気持ちがよくわかります。
それこそが今回の大事な感情の一つであり、どの登場人物にもどこかしら感じるものがあります。
神楽に詳しくない読者でも、地の文やキャラクターのやり取りでなんとなくわかるようになっているので読みやすく、お役所仕事あるあるも健在。
そして、主役二人のさらに深まった仲にも目が離せません。
レビュアー
市役所に奉職してから1年半(冒頭の前日譚はちょうど1年)経った頃、美郷と仲間2人は隣市で起きた事件へ応援派遣される(災害応援派遣も現実で多くある)。
2週間で解決すべき事件であったが、組織としても未だかつて経験のない大規模な事件へと発展していく。
それに専門職として未熟ながらも対峙せねばならない葛藤。これまでの物語で逡巡してきたことが、改めて美郷を苛む。
また本編のもう一人の主役である友人・広瀬。自称「普通の人」は「普通の人」ばかりいる社会では特に問題なく生きているが、周囲が「特殊な人」ばかりになると途端に「普通」の足元を掬われてしまうようだ。
「普通」に囚われた挙句自己評価が低くなりさらに韜晦しはじめる広瀬。自分自身の特殊性にどう「普通の人」と折り合っていくのか思い悩む美郷。
お互いへの理解が滑って辛い展開だけに、事件の行方とともにそちらも目が離せない。
実は異形のものを身に宿す美郷であるが、終わらぬ葛藤とともに徐々にそれを許容していく。その許容の過程で気づく、自己の異形化であるが、むしろ美郷自身はどんどん「人間味」を増していっているように思われてならない。
異形のものである「白太さん」については、ここでは書かない。癒しである。今回も何度も癒された。本作のファンの中で断トツの人気を誇るこの愛しいものについては、是非ご自分の目で確かめて欲しい。なお、来年は巳年である。
レビュアー
春、特殊自然災害係に異動になった広瀬は、事務職員ながら人手不足により、美郷や怜路たちと現場に向かうことになる。
もののけを見ることも祓うこともできない、『普通のひと』である広瀬ができることと思うこと。おそらく読者により近い彼には、たくさんのエールを送りたい!
一方で、「面に取り憑かれたモノ」と対峙した美郷は、かつての夜を思い返し――尽きぬ悩みを抱えながら、改めて怜路の存在を認識する。
やっと気づき始めたそれは、互い境界に立つ者同士であるだけでなく、一緒に過ごすなかで濃く強くなっていった繋がりなのだろうと思う。
もののけ側も人間側も登場人物がぐんと増え、それぞれの人物に立場や悩みがあって、読んでいるうちに自身を顧みてはうっかり「面」に取り付かれそうな怖れを覚えながら読み進んだ。
尾関山の桜や広島の神楽と温泉施設、今回も地域に密着した舞台が描かれ――特に神楽は、今回の事件に大きくかかわっているようで、逃亡した面や若者たちの悩みの行方とともに、続きを楽しみに思う。
レビュアー
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今回刊行された3巻は、それぞれ別のキャラにスポットライトを当てている話が3つ収録されている。
そのどれも独立した話としても面白く拝読したが、全てが3つめに収録されている表題作『潮騒の呼び声』と濃密にリンクしているのが最大の特徴に思えた。
こちら側とあちら側の関係性や「名」と役割を与えること、そして、人と人とのつながりと関係性が、見事に『潮騒の呼び声』にまとまっているのは感動だった。
作者の持ち味であるふんだんな情景の美しさと自然の畏怖を感じる描写は「神」との対峙と、そこにまつわる決断をさらに魅力的に際立たせてくれていた気がする。
レビュアー
今回は『白太さんの家出』と『潮騒の呼び声』の2本立てでしたが、閑話の『鳴神克樹の再訪』がとても良い役割を果たしていたと思います。
まず『白太さんの家出』で普通になりたかった比阪恵子の為に普通ではなくなった美郷。
その2人の姿と閑話『鳴神克樹の再訪』で兄に対して負い目を感じている弟、克樹の決意を目の前で確認した怜路が『潮騒の呼び声』でついに自分の過去と対峙することになります。
前作までとは違い、今回は狩野怜路に大きくスポットを当てた作品となっているので、怜路ファンには見逃せない作品となっていると思います。大変オススメです。
レビュアー
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続編、とても楽しみにしておりました。
今回も、美郷と怜路の語らずとも分かり合っていて、息の合った姿にハラハラワクワクしながら読みました。
また怜路だけでなく、美郷の周りのみんなが互いに連携している様子はとても温かく、胸が熱くなりました。
良い事も良くない事も日々様々あり、その中で何かしら選択する。お話を通して、自分で決めること、自分の意思の重要性を改めて感じました。誰かに言われたから、決められたからではなく、自分の意思で選択し、行動することで力強さを増すと感じました。
そして今回の白太さんにびっくり。美郷と怜路だけでなく、白太さんも大活躍で面白かったです。
私の知っているかしわ餅と違うこと、その土地で違うのだと初めて知りました。物語を通していろいろな土地のあれこれが分かるのも、嬉しいですね。
書店関係者
前巻、狗神事件で同居人の大家、狩野怜路を救い、巴市に足を着けた美郷に今度は彼が置いてきた過去が追い掛けてくる。
追うのは、美郷が昔「鳴神の居場所」としていた弟の克樹。その後ろめたさと彼への兄としての愛情に大きく揺れる美郷は……。
しかし、もう彼は一人ではないんですよね。特殊自然災害(もののけトラブル)係の先輩達、受け入れた己の分身の白蛇、白太さん。そして怜路。皆の協力を得て、哀しい鬼と一緒に括られてしまった克樹を救い出し、独りぼっちの『鬼ごっこ』を終わらせようと……。
前巻同様、リアルなお役所事情に、それとなく疎外された新住民などの田舎の事情、それに土地の過去の惨い記憶が重なって、冬にふさわしい重さとそれを救う良縁、奇縁が綴られたオカルトお仕事譚でした。
レビュアー
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ある職種の採用で、倍率500の狭き門をくぐり抜けた市役所の新人職員、宮澤美郷。
22歳の男性で、サラサラな黒髪ロングヘアを後ろで束ねるという市役所では珍しいヘアスタイルで、顔立ちも大変に美しい。
広島県巴市役所には特殊自然災害係という名の怪異対策班が設置してあり、力のある術者を技術者として採用している。美郷はこの係に配属されたエリート陰陽師だった。
新居への引越し当日、トラブルで途方に暮れていたところ、不思議な瞳の色をした金髪ピアス男怜路に救いの手をを差し伸べられ、彼の住む古い民家の離れで部屋を借りることに。
美郷は自身が○○○という大きな秘密を抱えながらも新人職員として慣れない市役所の煩雑な仕事に奮闘し、怜路や上司達と少しずつ打ち解けていくのだが…。
術者としての凄腕もありながら、お役所でせっせと事務仕事や電話対応をしたり、日常的な生活能力が若干低めという、ギャップがある所もかわいいです。陰陽師だけれど雅で綺麗で神秘的…なだけじゃありません!
怜路との物語も面白くて、ぐいぐい引き込まれました。おすすめします。
レビュアー
古代からの神々の気配が残る広島県巴市の危険管理課特殊自然災害(もののけトラブル)係に新卒採用された宮澤美郷。しかし、彼の公務員ライフは最初から引っ越し先のダブルブッキングとトラブルだらけで。そんな彼をダンボールの子猫のごとく拾い、自宅の離れに住まいを提供したのが天狗眼を持ち、天狗に育てられたという『拝み屋』狩野怜路だった……。
一見、優しげで大人しげな美青年、美郷は、その外見からは思いもよらないほどの過去と過去の異物を抱え込んでいます。それ故に「普通」に憧れながらも心は現世と異界の境目のほとりでふらついているような彼が少しずつ怜路や上司達により、人の世で生きる手がかりを掴んでいきます。
しかし、その一番の手がかりとなる怜路もまた彼とは別の事情を抱え込んでいるようでもあって……。
「もののけトラブル係」が現実にあったら、こんな感じだろうか? というお役所仕事のリアルさと、地元広島の地域性や伝承を背景に、本当にいそうな「もののけ」達のリアルさ。
現実と地続きにありそうな、二つのリアルさが面白い、お仕事系オカルト小説でした。
レビュアー