のっぺらぼうと天宿りの牙卵 影の王と祟りの子

著

ことのは文庫

あらすじ

じゅうと呼ばれるあやかしを操り、
人々に害をなすゆうを祓う、はくほうを目指して修行の旅をするときさめ

ある晩、踏み入れた山中で巨大な幽鬼に喰われかけた彼は、
ひとりの青年に命を救われる。

自らをばんげい王であると名乗るこの青年は、しかし、
顔を持たぬ異形の鬼と化していた──。

国を案ずる名もなき王。
神に祟られた禁忌の子。
ふたりの邂逅の先にあるものとは。


絆によって導かれたふたりが、新たな運命を切り開く!
陰謀渦巻く小国を舞台に綴られる、予測不能の和風ファンタジー!

動画

のっぺらぼうと天宿りの牙卵
影の王と祟りの子 公式PV

登場人物

ときさめ…主人公・姓ははる



刻雨 設定画1
刻雨 設定画2

登場人物

ときさめ…主人公・姓ははる

登場人物

ときさめ…主人公・姓ははる



刻雨 設定画1

刻雨 設定画2

登場人物

あらたまばんげいの国守の名・姓はりょう



刻雨 ラフ画1
刻雨 ラフ画2

登場人物

あらたまばんげいの国守の名・姓はりょう

登場人物

あらたまばんげいの国守の名・姓はりょう



刻雨 ラフ画1

刻雨 ラフ画2

登場人物


里見透
 物語づくり・執筆作業は基本的に孤独な戦いですが、その戦いをくぐり抜けた先で、私以外の方の手により物語が描き直された瞬間、登場人物が、世界が、私の手を離れた別個の命を持って息をし始める、そんな感覚を持っています。
 本作では、匙於ナゲルさんに同人版、睦月ムンクさんに商業版のイラストを描いていただき、それぞれに命を吹き込んでいただくという、とても贅沢な経験をさせていただきました。
 異なる筆致で描かれた、けれど同一の物語の中で息を始めた彼らのイラスト、私にとって宝物です。

 おふたりとも、本当にありがとうございました!

睦月ムンク
 今回はカバー担当のご機会をいただき大変光栄でございます!

 キャラクターデザインについて初めは少しアレンジを、という過程もあったのですが、匙於さんのキャラクターデザインがとっても素晴らしく、(拝見した設定画もまたその完成度たるや……)準じる形で描かせていただきました。この過程も大変楽しかったです!

 カバーイラストが里見先生の物語に少しでも力添え出来ておりましたら幸いです。


睦月ムンク
 今回はカバー担当のご機会をいただき大変光栄でございます!

 キャラクターデザインについて初めは少しアレンジを、という過程もあったのですが、匙於さんのキャラクターデザインがとっても素晴らしく、(拝見した設定画もまたその完成度たるや……)準じる形で描かせていただきました。この過程も大変楽しかったです!

 カバーイラストが里見先生の物語に少しでも力添え出来ておりましたら幸いです。


匙於ナゲル
 里見先生から聞いた二人の人となりと、物語から受けた印象を素直に形にしました。
 刻雨と新玉が大層イキイキとしていたためか、自然と、動いた時の見え方を意識したデザインになっていました。

 刻雨は旅、山伏、ちょっと抜けてる感じからイメージを膨らませて、直立不動のシルエットは和装のイメージに収まる範囲で。動いた時には激しく、少し異質な感じがするように。
 新玉は自信家、妖艶、底知れない感じを大切にして、佇まいや雰囲気で圧倒するように心掛けて。きっと力強く滑らかに動くだろうから、動線の軌跡が感じられるシンプルな形に。
 それらを里見先生と共有して意見を仰ぎ、刻雨と新玉を形にしていきました。

 今回、商業版では睦月ムンク先生が装画を担当されていますが、なんとキャラクターデザインはほとんど変わっておりません!
 だからこそ、睦月先生の繊細なテイストによって描き出された二人の静謐で神秘的な側面が印象的です。

 同時に、新緑にも似た凜とした力強さも感じられます。
 睦月先生が描く刻雨と新玉によって、二人の新しい一面と揺るがないものを見出せるこの体験はなんとも贅沢ですね。

 睦月ムンク先生、素晴らしい装画をありがとうございました!

用語解説

おんみょうりょう
帝領支配下の各国の祭祀を司る組織
しょうもんほう
陰陽寮に属する法師の一派
はる
白牙法師の総本山
はくほう
御晴野に属する北方の法師
じゅう
白牙法師とともに幽鬼を祓う者
らん
牙獣のもととなる卵
やまもり
土地神
ゆう
未練を残して死した者の成れの果て

書き下ろし番外編

『のっぺらぼうと天宿りの牙卵 影の王と祟りの子』刊行記念!

里見透先生、書き下ろしの番外編。
本編の始まる前夜、新玉率いる視察隊の
ある日の出来事とは――。

文・里見透

読む

萬景国の武者

萬景の国守くにもり稜賀りょうが新玉を警護する側役たちの名前を紹介。
番外編『前夜』に登場した清輔や
他の側役たちの行動については、ぜひ本編にて!

  • うしごめ
  • おおがき
  • まる
  • らく
  • きよすけ
  • しおごえ
  • つる
  • りょうあん

番外編

萬景国の武者

萬景の国守くにもり稜賀りょうが新玉を警護する側役たちの名前を紹介。
番外編『前夜』に登場した清輔や
他の側役たちの行動については、ぜひ本編にて!

  • うしごめ
  • おおがき
  • まる
  • らく
  • きよすけ
  • しおごえ
  • つる
  • りょうあん

── 赤琥しゃくごう七三三年 九月 二十九日 ──

「おっかしいなぁ。こうすりゃ、飛ぶはずなんだけど」
 耳に届いたその声に、ふう、とひとつ、溜息をつく。
 昼下がり。領土視察の旅を終え、萬景ばんげいの都、凱玲京がいれいきょうへと至る帰り道。他の経路より来たる仲間達と、待ち合わせるために立ち寄った、小さな村落でのひととき。
 萬景の国守くにもり稜賀りょうが新玉あらたま側役そばやくたる清輔きよすけは、ほんの一瞬目を離したすきに姿を消した、ひとりの青年を探していた。視察隊の長──、よく言えば行動力のある、言葉を選ばずに言えばいささか落ち着きのないこの青年を探すのは、いつからか、総勢十四名の視察隊の中でも、清輔の役目になっている。
 とはいえ、その事自体は苦でもない。見つけるだけなら簡単なのだ。あの青年の足が向かう先はいつだって、声の小さな人々が素朴に暮らす、そういう場所であることを、清輔はよく心得ている。
「こんな感じだったと思うんだけどなあ。……あっ? しまった、削りすぎたか」
「何やってんだよお。おれたち楽しみにしてるのに」
「ねえ、飛ぶの? 飛ばないの? こうやってふつうに投げるのと、何が違うのさ」
 やんやと騒ぎ立てる子供達の声。それにすっかり取り囲まれ、ううんと唸る青年を見つけた清輔は、苦虫を噛み潰したような顔を隠しもせず、こう呼びかけた。
しん、」
 町遊びの際に用いる、青年の偽名だ。本名ではない。こういった場で彼の身分を明かすことが出来ないので、便宜上そう呼んでいるに過ぎない。だが呼ばれた青年は、頓着する様子もなく顔を上げ、清輔の姿を認めるやいなや、「良いところに!」と心底安堵した様子で立ち上がった。見れば、彼はいつの間にやら旅装を解いて、腰に帯びていた刀まで脇に置いてしまっている。
「新、おまえ丸腰じゃねえか。頼むから警戒心を持て。何かあったらどうすんだ」
 思わず苦言を呈したが、相手が気にした様子はない。
「こののどかな村落で、一体何に警戒しろってんだ。なあ、それよりおまえ、こういうの得意だろ? 竹材の切れ端をもらったから、これで竹とんぼ作ってくれよ。ほら、最近、凱玲京で流行ってるやつ。なっ? 頼むよ、元しん方のたくみ殿!」
 そう言って、新が手にした小刀と、細い竹材を押し付けてくる。竹とんぼ。なぜ突然そんなものを、と問おうとして、改めて周囲を見回せば、そこかしこで村人達が、竹を編み篭を拵えているのが見て取れる。成る程、確かこの辺りは、竹細工で有名な土地である。端材はざいには事欠かないわけだ。
 それで概ね、新の意図に察しがついた。
「ったく。言っとくけど、今の俺は、おまえの護衛役なんだからな。小普請方から引っ張り出したのは、おまえだろうが」
「悪い、悪い」と悪びれもなく言う新が、ひらりと身を翻し、今度は井戸端で話し込む女人達の輪の中へと入っていく。気付けば清輔だけが、先程まで新を取り囲んでいた子供達の中に取り残されることとなってしまった。これでは逃げられようもない。
 観念していびつに削られた端材へ視線を落とし、苦笑する。酷い出来だ。新自身も竹とんぼがどのようなものか、たいして理解はせぬまま、なんとなくの知識だけで拵えようとしたのだろう。造りかけの貧相な羽根をぽいと投げ捨て、新しく端材をもらい受け取ると、清輔はその場へ座り込み、期待と疑惑の目を半々に向ける子供達にも手元が見えるようにして、竹とんぼの拵え方を教えてやることにした。
「羽根の右側と、左側とが均一に、互い違いになるようにするのが肝要だ。軸を無駄に回す必要はない。両手に挟んで、一度に回す、……そら、飛んだ!」
 出来上がった竹とんぼを空へと放てば、幼い子供達がきゃあきゃあと楽しげな声を上げ、我先にとそれを追っていく。一方、やや年嵩としかさの子供達は自ら小刀と端材を持ち、それぞれに竹とんぼを拵え始めた。
(さて、これであいつも満足かね)
 井戸端に座り込み、女達と親しげに話す新へと手を振り、呼び寄せる。今度こそは、新も素直にそれへ従い、女達にもらったらしい餅を頬張りながら、清輔の後をついてくる。
「端材で流行りの玩具を作らせて、この村の収入源にしようって魂胆か」
 問うた。そうであろうと確信があったが、やはり新は頷いた。
「この辺りはまだ貧しいからな……。端材を活用できて、良い小遣い稼ぎになるだろ? ちびどもも楽しんで取り組むだろうし」
「よくもまあ、次から次にそういうことを思いつくもんだ。女人達とは、何の話を?」
「ここいらの治安のこととか、田畑の具合がどうかとか、そんな話をちっとばかり。……河洛からく達と合流したら、この視察の旅も終わりだろ? 凱玲京へ戻ったら、しばらくは城に詰めっぱなしの暮らしになるだろうし、少しでも多く、外の話を聞いておきたくてさ」
 そう言って笑う新は、心底愛おしそうに、なんでもない田舎の村へと視線を向ける。
 そこに幾ばくかの諦観と、羨望、そして郷愁の念を混じらせて。
「欲を言えば、もうちっとあちこち視察したかったけどなあ。一昨年氾濫した朝酌川の近辺の様子も見ておきたかったし、玉襷たまだすきとの国境くにざかいも……、なんなら越境してあちらの国の様子とかもさあ、偵察したかったよなあ」
「また無茶なことを」と言いながら、こんな時、清輔はふと不安になる。目の前にいるこの青年が──、萬景の国の理想の王たらんとして邁進する彼が、本当は、窮屈な城での生活になど戻りたくはないと、そう思っているのではなかろうかと。
 本当は、与えられた役割に縛られたりせずに、自由に、世を駆け回りたいと思っているのではなかろうかと。
 だがこの青年は、清輔の不安など一瞬にして消し去るようなこざっぱりした笑みを浮かべ、悪戯っぽくこう続けた。
「けどまあ今回の視察も、十分意義のあるものになった。この萬景の国を富ませるために、是正すべきことにはどんどん着手していかなきゃな。──やらなきゃならねえ仕事は、たんとある。また当面は忙しいぞ」
 ついて来れるか? とでも言いたげなその口調に、清輔はにやりと笑みを浮かべた。当然だ。向かう先で待つ同胞達も、きっと同じことを言うだろう。
 そんなことを思いながら、清輔は、己が主人と定めた青年の目をまっすぐに見て、「望むところだ」とそう告げた。

地図

帝の治める帝都・ろうぜんたいきょうから程近い西の守護国。
帝領の守護国となることは、
西域の諸国にとっては大変な名誉であり、繁栄の象徴である。

地図

らくさん
神鹿が祀られていた西域の山
飛鳥あすか緑院りょくのいん
かつての権力者・飛鳥井一族の館
帝都ていとろうぜんたいきょう
西域のすめらぎ一族が治める帝領の都
せいはく
萬景の港町
宿すく
国境くに ざかいの町
らいおう
萬景の町
がいれいきょう
萬景の首都
そうおうざん
天狗が祀られている西域の山
ゆうどう
萬景国内の主要交易路のひとつ
けんもんじょ
萬景と帝領の国境に設けられた施設

レビュー

  •  独自の世界観で描かれた和風ファンタジー。二人が背負う過酷な背景。その土地の風の匂いも土の温度も感じられる筆致豊かで色鮮やかなロードムービー。一世一代の大勝負。どっぷり浸かってたっぷり堪能、酔いしれました。
      文体の語り口もまた小気味よいリズムなので手に汗握る緊迫したバトル、二人が背負う過酷で重い運命も陰謀渦巻くシーンも読み進めるのがとても楽しく、早く先の展開を知りたい読者にはそれがまた心地よい追い風となり、一気に駆け抜ける爽快感がたまらなかったです。

    レビュアー 黒田由美子 様

  •  圧巻の一言に尽きる。物語を構成する全ての要素に無駄がなく、一気に引き込まれた。
     数奇な運命の巡り合わせで旅を供するのは、人間の理から外れた「影の王」と「祟りの子」。
     彼らの背景にあるものがあまりにも重たく胸を抉られる思いがしたが、己を見失う事なく前に進み続ける姿勢に涙が零れ落ちた。
     一世一代の大勝負に出た彼らが傷つきながらも掴み取ったもの。その先の未来にどんな世界が広がっているのか期待に胸が膨らみ、早くも物語の続きが気になり心が躍り出す。

    レビュアー 田口美佳 様

表紙

のっぺらぼうと天宿りの牙卵
影の王と祟りの子

  • 著:里見 透
  • 装画:睦月ムンク
  • キャラクター原案:匙於ナゲル
  • 発売日:2023年6月20日
  • 価格:792円(本体720円+税10%)

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