幽霊が見える体質のせいで、引きこもりとなった宮脇珠杏(みやわき・すず)は、新たな学校で、3か月遅れの高校生活を始めることになった。
彼女の傍らにいるのは、幼馴染の多賀谷節(たがや・せつ)と、不愛想な保城臨(ほうしろ・りん)。
事情を知っても態度の変わらぬ彼らと過ごすうち、珠杏の心は癒されていく。
しかし、その幸せな時間は長くは続かなかった――。
ことのは文庫×魔法のiらんど
『泣ける文芸小説』コンテスト
大賞受賞作、待望の書籍化!
「心配性な東郷先生」
──朝一番の表情を見れば、その人物がどんな感情を抱えて今日、学校へやって来たのかは意外と分かる。
校門の前で立っていると、校舎の方から予鈴のチャイムが鳴り響いた。左手に巻かれた腕時計の文字盤を見つめる。丁度、八時十分。授業開始の本鈴まで残り五分となったこのタイミングが、所謂うちの高校の「門限」だ。もう何十年も生徒指導担当を請け負う俺は、いつものように殆どの生徒達が通過し終えた門扉を閉鎖しようと動き始める。
君はいつも、迂回するの意味は、最後になって分かりました。
本当にどうしようもないほど遠回りしてたどり着いた主人公(たち)。
でも、その回り道は、必要な道でしたね。
途中、どうしようもなく心が揺さぶられてしまいました。
登場人物は、外への表れ方は違うけど、皆、相手のことを思う人ばかり。でも、そればかりではいられない自分の思いもあったりして、そこが魅力的でした。
(高校生時代の担任の先生も、職業柄、素晴らしいなと思いました。)
物語の中で9年の月日が流れるけれど、その流れが残酷だなと思うことも。
あらすじを読んだだけでは分からない、この物語の魅力を、ぜひ本編を読むことで感じてほしいです。
図書館関係者
3ヶ月遅れで高校生活を始めた珠杏を中心とした、リズム感ある会話の応酬が楽しい。しかし、珠杏がある距離感を保つ理由を知った時、唖然とした。そして、真逆の性格/態度ながら彼女を囲む節と臨、校門までの回り道を探すまでして彼女を支える2人の意気に感じ入った。これが書名の「迂回」なのか。
1年生。過去に縛られ今を恐れ続ける珠杏に転機が訪れる。彼女が踏み出す最初の一歩に拍手を。
2年生。臨のために珠杏が動く。人はこんなにも力強く変われるものなのか。
3年生。衝撃の展開。そんな事があっていいのか? そして、それから珠杏の苦しみが始まるとは。
更に大学、就職後とそれが続くとは。
3人とも相手を想うからこそ、自分を許せないからこそ嘘をつき続けてきた、この9年間が終わりを告げた時、もらい泣きをしていた。これが本当の「回り道=迂回」なのだと、ただ、「君」だけでなく「3人とも」だったのだと。
こんな遠い回り道をしてまでたどり着いた、本当の想いに幸あれと、心から願っていた。
レビュアー
幽霊が見える体質という他人には分からない悩みを抱える珠杏。彼女の悩みを先回りして察知したりずっと寄り添う幼馴染みの節。そして節の親友の臨。
彼らの9年間は、まさに青春といえる輝きも苦しみも悩みもありました。
「その回り道は」に続く各章の名前の付け方がとても好きです。素直になれないために起きる驚きの展開は胸が苦しくなりました。
でも回り道は決して無駄ではない、いつかたどり着くために回り道も必然なのだと思え、ラストには涙しました。
回り道をする彼らをそっと照らすような存在の前山先生の言葉や行動がとても素敵で心に残りました。
レビュアー
君はいつも、迂回する
- 著:柑実ナコ
- 装画:急行2号
- 発売日:2023年6月20日発売
- 価格:803円(本体730円+税10%)