ことのは文庫

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――私はいつも、人を傷つける言葉ばかりが得意だ。

他人と距離を置く孤独な女子高生の桔帆きほは、
バイト先の花屋で「毎月20日、必ず奥さんのために花を買いに来る」
お日様のような笑顔を放つ謎の大学教授・東明しのあきに出会う。

夏休みに入った頃、東明は彼女にある提案をもちかけた。
「自分がバカンスへ行く間、家の庭の世話をしてほしい」

戸惑いながらも了承した桔帆が、東明の自宅へ向かうと。
「……なんだお前、やっぱストーカーとかだったわけ?」

以前、桔帆が大学に花を届けに行ったときに、
彼女を東明のストーカー扱いした「東明の弟子」と呼ばれる
不機嫌そうな大学院生・綾瀬あやせがそこで待ち構えていて――。

東明が仕組んだ、不思議な「同居生活」
三人はいつしか、かけがえのない「友人」となるが、
その奇妙であたたかな生活は、ある日突然終わりを迎える――。

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  • 西富みのり(にしとみ・みのり)
    高校二年生。優秀な兄を持ち、その兄が通った高校へと入学した。
    「あの優秀な」兄の妹として周囲から期待され、本人もその期待に応えようと優等生でい続けたのだが、とある事件をきっかけに不登校気味になる。
    駅近くのフラワーショップでアルバイト中に、不思議な雰囲気を持つ大学教授と出会ったことで、大きく運命が変わり始める。
  • 亮二(りょうじ)
    立川にある国立大学の教授。
    お日様のように屈託のない笑顔が魅力的な、フラワーショップの店長いわく「まじでくそイケメン(年齢的にはオジだけどオジじゃない)」な彼は、毎月20日に、必ず奥さんのために花を買いに来る。
    「桔梗の花で花束を作ってほしい」という自分のオーダーに対し、桔帆がしてくれた気づかいを知った彼は、彼女にある提案をする。
  • 亮二(りょうじ)
    東明のゼミで学ぶ大学院生。
    東明からは「一番弟子」と呼ばれている。
    無愛想で口も悪いが、勉学に対する姿勢は非常に真摯。 大学に花を配達にやってきた桔帆を、東明のストーカではないかと疑ったため、彼女との第一印象はお互い非常に最悪。
    ひょんなことから彼女と同居せざるを得ない状況となったとき、彼が彼女に放った「条件」とは――!?

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久々に立川駅に降り立ったのは、桔帆の兄・かじ橙生とうい
九月中旬、残暑の厳しい中、彼はとある喫茶店へと向かう。
レトロで趣のあるその店で、彼を待っていたのは――。

大切な相手を思う、それぞれのやり方に胸をうたれる書き下ろし番外編
「『策士』なクライアント」

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  • 泣けると評判の本を読んで実際に泣けることは多くないが、今回は違った。
    読み始めてすぐに桔帆の魅力に取り憑かれて応援したくなり、
    彼女のことをもっと知りたい関わりたいと思い3分の1のあたりで涙腺崩壊、そのまま一気に読んでしまった。
    癖があって不器用で誠実で優しい人たちが共鳴しあっていく。
    周りの個性的な人たちや不器用な人たちがまた誠実で思慮深くて笑いや涙を誘う。
    こんなにいい人ばかり出てくるのに夢中になる展開って何事ですか。
    心穏やかに過ごしたい夜でも、落ち込んだ時でも、理不尽な目に遭ってやりきれない時でも、
    きっとどんな精神状態で読んでも没入できると思う。

    (教育関係者)

  • 妻を亡くした大学教授、家業を継がなかった院生、優等生を諦めた女子高生。
    ひとつ屋根の下、同居することになった3人が、
    それぞれの「喪失」と「過去」をどう乗り越えていくのか。
    そして、その先に何が待つのか。
    それを彼らと一緒に、受けとめてほしい。

    同著者の前作『君はいつも、迂回する』が好きだった自分は、
    本作の情報を見て迷わずリクエストを送った。
    読後、想像以上に心に残る物語だったと実感した。

    最初は皆、独りだった。
    けれど出会うことで、変わることができた。

    人は、人によって変われる。救われる。
    それも――お互いに。

    (レビュアー)

  • 桔帆は、家でも学校でも、優等生でいられず上手く息ができないような日々を過ごしていました。
    優秀な兄と比べられ、期待に答えられない自分に落胆し、自分のことがわからなくなっていきます。
    そんな桔帆は、早く自立をしたくてお花屋さんでアルバイトを始めます。

    「お嬢さん。その綺麗に咲いているお花をいただけますか?」
    桔帆の耳に届いたその言葉が、少しずつ彼女の世界を変えていきます。
    大学教授と大学院生と女子高生の奇妙な同居生活は、なんたる少女漫画的展開なんでしょう。
    それがもうたまりません。
    キュンとしたり、それぞれの過去を知り胸が苦しくなったり、
    涙を流しながら、ずっと優しい陽だまりに包まれているようでした。

    桔帆を家に招いてくれるシノさん、口は悪いけれど過保護な大学院生の綾瀬、
    少し不器用だけどやさしい亜久津、そして花屋を営む夫婦。
    誰もが桔帆に寄り添ってくれます。
    桔帆と亜久津の関係が、とても印象的でした。
    周りから見たらちぐはぐに思えるかもしれないけれど、ふたりだからこそ築ける関係がありました。

    「頑張らなくていいよ」と言われて、ほっとする気持ちや焦燥感、取り残されるような不安。
    私ならきっと桔帆のように心が揺れてしまうと思います。
    無理をさせたくなくて「頑張らなくていい」と声をかけることもあると思います。
    でも安易には言えない言葉だなと痛感しました。
    色の違いで花言葉が違う桔梗。どちらの花言葉も包んでくれるようなお話で読んだあと、
    心の中に色の違う桔梗の花がそっと咲いた気がしました。
    誰かに認められることよりも、自分が進みたい道を決めて、
    自分が大切だと思う人と一緒に笑っていたいなと心から思いました。

    桔帆や綾瀬にかけてくれた言葉が、奇妙な関係の三人が住む家の縁側に注ぐ日差しのように優しくて、
    シノさんが愛おしくてたまりませんでした。

    (レビュアー)

親愛なるカンパニュール あなたに花を贈る理由

表紙
  • 著:柑実ナコ
  • 装画:池上幸輝
  • 発売日:2025年9月20日
  • 価格:803円(本体730円+税10%)

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